東京地方裁判所 平成11年(ワ)23878号 判決
原告 樋口登清
右訴訟代理人弁護士 巻嶋健治
被告 石川喜代美
主文
一 被告は、原告に対し、金一八〇万六〇五五円及びこれに対する平成一一年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五〇〇万七五〇〇円及びこれに対する平成一一年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告において、原告経営の学習塾の講師として雇用されていた被告が無断で塾生を引き抜いて自らが経営主体となって従来の原告経営の塾と同一または近似する名称で学習塾を営業した行為が、不正競争防止法二条一項一号所定の行為、債務不履行もしくは不法行為に該当すると主張して、損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、神奈川県小田原市城山所在の新幹線ビルの四〇二号室及び四〇三号室(この二室の中に六教室がある。)で、小田原ゼミの名称の学習塾及び「アイイーティー(IETT)」の名称の英語塾を経営している(甲一ないし三の各2、四、一四、乙一)。
2 被告は、原告に平成一一年三月末まで時給講師として雇用され、小田原ゼミ及び「アイイーティー(IETT)」で英語の授業を担当していた。
3 原告と被告の雇用関係は平成一一年三月末で終了したが、被告は、その後、同ビル内の一室で「アイ・イー・ティー(IETT)」の名称で自ら英語塾を経営している。
二 争点
1 被告の不正競争防止法二条一項一号所定の行為による損害賠償責任の有無
(主位的請求原因)
2 被告の債務不履行に基づく損害賠償責任の有無(予備的請求原因)
3 被告の不法行為に基づく損害賠償責任の有無(予備的請求原因)
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告
(1) 原告は、平成八年一一月頃から自己の営業を表示するものとして「アイイーティー(IETT)」の商号を使用して英語専門学習塾を経営しており、この名称でタウンページ(電話帳)、西湘リビング等に広告等の掲載を行うとともに、「アイイーティー(IETT)」専用の電話番号を開設するなどして生徒拡充の努力をしてきており、その結果として「アイイーティー(IETT)」は、原告が営業の基盤とする神奈川県小田原市城山を中心としてその周辺地域において需要者の間に広く認識されている。
(2) 被告は、平成一一年四月一日から、原告の商号と同一である「アイイーティー(IETT)」もしくはこれと極めて類似する「アイ・イー・ティー(IETT)」の名称を使用し、かつ、原告が「アイイーティー(IETT)」を経営するビルと同じビル内の一室で英語塾を経営している。さらに、被告は、原告の「アイイーティー(IETT)」と混同を生じさせる目的をもって、ビル一階の郵便受けに「アイ・イー・ティー(IETT)」との表示をなし、原告の電話番号と一番違いの電話番号を取得して使用している。
(3) 被告のこのような行為は、不正競争防止法二条一項一号に該当する行為であり、これにより被告は平成一一年四月一日から平成一二年九月一三日までの間に九〇三万二〇〇一円の利益を得ているから、不正競争防止法五条一項の規定により原告の損害は右同額となるが、原告は被告に対しその内金五〇〇万七五〇〇円の支払いを求める。
(二) 被告
原告の主張を争う。
学習塾の顧客吸引力は、講師や教授内容の質によって定まるものであり、原告が行ったような内容の短期の広告により「アイイーティー(IETT)」の名称が周知性を獲得したり、生徒の増加に寄与するものではない。実際にも、被告の経営する「アイ・イー・ティー」の新規加入者は、口コミ及び知人や従来からの生徒の紹介によるものであり、この名称は何ら被告の売上げに寄与していない。したがって、原告の主張する類似商号の使用と原告の損害の間には因果関係はなく、被告の利益をもって原告の損害と推定することはできない。
2 争点2について
(一) 原告
(1) 被告は、原告の従業員として雇用されていたが、平成一〇年一二月、突然独立したいと言い出し、その後、平成一一年三月に至り、原告に何らの断りもなく、「小田原ゼミ」及び「アイイーティー(IETT)」の被告が担当していた塾生及びその保護者に対し、「自分は独立するから授業料は以後すべて原告にではなく自分宛に支払うように。」との趣旨の連絡をし、独立と称して別表1記載の塾生を引き抜き、その受講料のすべてを自己のものとしている。さらに、被告は、被告のいう独立後も平成一一年五月末日まで原告の賃借している講義室を強引に使用継続した。また、被告は、右講義室を退去した後、原告経営の「小田原ゼミ」及び「アイイーティー(IETT)」と同じ新幹線ビル内に部屋を賃借し、しかも「アイイーティー(IETT)」の名称を使用して原告から引き抜いた塾生を主な対象として学習塾を経営している。
(2) 被告は、原告の従業員として、塾生の引き抜き行為をしないことはもちろんのこと、雇用契約が終了した後においても原告と競合するような形で原告と同一内容の学習塾経営をしてはならないし、原告の使用している名称を自己のものとして使用したり、原告の信用を毀損する行為をしない雇用契約上の義務を負うものである。したがって、被告の右行為は、雇用契約上の義務に違反する債務不履行となるものである。
(3) 原告は、被告の債務不履行により、<1>別表1記載のとおり塾生引き抜き行為による損害三七六万四八一二円、<2>信用毀損行為による損害一五〇万円、<3>被告が鍵を返還しないことによる鍵交換費用一万四七〇〇円の損害を被った。
(二) 被告
(1) 原告の主張を争う。
(2) 被告は、塾の生徒やその保護者らに「近く独立するので希望があれば被告の下で授業を継続できる。」と伝えたところ、生徒及びその保護者らの自由な意思で被告の下で授業を受けることになったもので、原告主張のように「引き抜き」には当たらない。
(3) また、被告が原告から独立して英語塾「アイイーティー(IETT)」を経営する構想は原告と被告の間で数年前から合意されていたものであるが、平成一〇年頃から給与の遅配が重なるようになり、被告は強い危機感を抱いて原告と話し合いをすることを求めたが、原告は話し合いをすることを放棄した。このように、原告は、自ら雇用契約上の義務の履行を怠っていたのであるから、原告の請求は、雇用契約上の義務の履行を被告にのみ求めるもので信義則に反し許されない。
(4) 被告が引き抜いたと原告が主張する生徒らについては、別表2記載のとおりの事情があり、原告主張の損害額を争う。
3 争点3について
(一) 原告
右2の(一)のとおり被告の行った塾生の引き抜き等の行為は、仮に債務不履行にあたらないとしても、不法行為を構成するものであり、原告はこれにより右同額の損害を被った。
(二) 被告
原告の主張を争う。
第三争点に対する判断
一 争点1(不正競争防止法違反行為による損害賠償責任)について
1 証拠(甲一ないし三の各1、2、四、五の1ないし6、六、一四ないし一七、乙一ないし三、五、六、一一、一三、原告及び被告各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、平成五年頃、神奈川県小田原市城山の新幹線ビル四〇二号室及び四〇三号室で「小田原ゼミ」の名称で営まれていた学習塾の経営を譲り受け、同学習塾で時給講師として英語を教えていた被告を継続して雇用することとなった。
(二) 原告は、平成八年一一月頃から、「小田原ゼミ」と並行して同ビル四〇二号室で「アイイーティー(IETT)」の名称で英語専門の学習塾を始め、被告をそのチーフとし、授業も主に被告に担当させた。
(三) 原告は、「小田原ゼミ」とあわせて、「アイイーティー(IETT)」についても、電話帳(タウンページ)、西湘リビング等に広告等を掲載し、電柱広告も行うとともに、「アイイーティー(IETT)」専用の電話番号を開設するなど、生徒数拡充のための努力をしてきた。なお、これらの広告では、米国の大学の大学院を終了した被告が「アイイーティー(IETT)」のチーフであることを宣伝することが多かった。
(四) 被告は、原告から支払われる給料が遅配がちであったことなどを理由に、平成一〇年一二月、独立したい旨を原告に告げたが原告はこれを認めなかった。ところが、被告は、平成一一年三月に至って、原告に無断で、「小田原ゼミ」及び「アイイーティー(IETT)」の被告が担当していた塾生やその保護者らに対し、「自分は独立するから、授業料は以後すべて原告にではなく自分宛に支払うように。」と告げるとともに、これらの塾生が原告に対して預金口座振替の方法で支払っていた塾費の支払いを止めるため「預金口座振替解約通知書」の用紙を配布し、これに署名押印して金融機関に提出するよう働きかけた。その結果、同年四月以降、別表1記載の塾生(ただし、長沼エリカ及び福井ユキを除く。)が被告経営の英語塾に移籍もしくは入塾し、原告ではなく被告に塾費を支払うようになり、これらの生徒が被告に引き抜かれた結果となった。
(五) 被告は、同年四月以降、原告から独立したと称し、右のとおり塾生らから支払われる塾費を自己のものとして取得したが、同年五月末までは、原告の抗議にもかかわらず、原告が賃借している新幹線ビル四〇二号室の教室を従来どおり使用して右のとおり引き抜いた生徒らに英語の授業を行った。
(六) その後、被告は、同し新幹線ビルの一一〇二号室を賃借し、「アイ・イー・テー(IETT)」なる名称を用いて右のとおり引き抜いた塾生や新たに入塾した塾生らに対して英語の授業を続けている。また、被告は、原告が使用していた「アイイーティー(IETT)」専用の電話番号である「××××-××-××六一」と一番違いの「××××-××-××六二」の電話番号を取得し、電話帳(タウンページ)に搭載した。
(七) ところで、被告は、大学卒業後、防衛庁に勤務中英語検定一級に合格し、その後、米国の州立サウスカロライナ大学の大学院に留学した経歴を有し、英語教育に習熟し、熱意を有している。また、小田原市の出身者で同市に地縁、血縁を有し、右のように新たに自己の塾を営むようになってから入塾した生徒らはいずれもこのような友人、知人等を通じてのいわゆる口コミによって獲得したものである。
また、被告が、右のように「アイ・イー・テー(IETT)」の名称を用いたりしたのは、前記のように被告が原告に雇用されている間、「アイイーティー(IETT)」のチーフとして実際上授業や庶務的な事務のほとんどを行っており、この名称が自己のものであるかのような認識を有していたためであって、原告経営の英語塾との誤認・混同を引き起こすことによって塾生を獲得することを意図したものではなかった。
2 右認定事実に照らすと、被告は原告の経営する英語塾の名称である「アイイーティー(IETT)」と極めて類似する「アイ・イー・テー(IETT)」なる名称を用いて英語塾を経営し、ことさら混同を招きかねない電話番号を用いるなど、不正競争防止法一条一項一号に規定する原告の営業と混同を生じさせる行為を行ったものといえる。しかし、原告の経営する英語塾に通っていた塾生らが被告の新たに経営することになった英語塾に移籍し、また、その後、被告の経営する英語塾に相当数の生徒が新たに入塾し在籍しているのは、被告の右のような行為によって、これらの塾生が被告の経営する英語塾を原告が経営するものと誤認、混同したことによるものではなく、被告の行った塾生の引き抜き行為や、被告の経歴や英語の教授能力、被告の友人、知人を通した勧誘行為等によるものというべきである。
そうすると、原告は、被告の行った塾生の引き抜き等の行為(これが原告に対する債務不履行に当たることは次項に述べるとおりである。)による債務不履行に基づく損害賠償を求めうるとしても、不正競争防止法違反行為を理由とする損害を被ったものとはいえず、その賠償を求めることはできない。
二 争点2(債務不履行に基づく損害賠償責任)について
(一) 右一の1に認定したとおり、被告は原告の経営する英語塾の講師として雇用されていたのであるから、このように雇用されて塾生らに授業を行っている立場を利用して原告に損害を与えてはならない雇用契約上の付随義務を負うものである。そして、被告が、自己が英語の授業を担当していた塾生やその保護者らに働きかけて、被告が新たに経営することとなった塾に移籍させ、原告に対する授業料の納入を取り止めさせるという塾生の引き抜き行為や原告の賃借している教室を承諾なく使用するなどの行為を行ったことは、右の雇用契約上の義務に反する行為であり、これによって原告の被った損害について、被告は債務不履行による損害として賠償する義務を負う。
この点に関し、被告は、被告が原告から独立して英語塾「アイイーテイー(IETT)」を経営する話は数年前から原告と被告の間で合意されていたと主張する。しかし、証拠(乙三)によれば、かって原告が被告に対して、あくまでも「アイイーティー(IETT)」の経営主体が原告であることを前提として、小田原ゼミとは全く独立した英語教育機関とする構想を述べた事実は認められるものの、被告を独立させるというような合意があった事実を認めるに足りる証拠はない。
また、証拠(乙三、被告本人)によれば、原告から被告に対する給与の遅配があった事実は認められるものの、このような事実があったからといって、被告の行った右のような行為が正当化されるものではなく、本訴請求が信義則違反となるものとは解されない。
(二) そこで、原告の被った損害額について判断する。
(1) 証拠(甲七、八、九の1、2、一〇、一一ないし一五、一七、乙八の1ないし7、一二、原告及び被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告の前記債務不履行により次のとおり合計一八〇万六〇五五円の損害を被ったことが認められる。
<1>丸岡優佑分(二五万七九〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時中学三年生であり、原告経営の塾で英語及び数学の授業を受けていたが、被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍すると同時に原告経営の塾の数学の授業も受けなくなった。なお、同人は、数学については、その後、中学三年時である平成一二年二月までで塾に通うことを止めている。そうすると、原告は、同人の平成一一年四月から平成一二年二月までの数学及び英語の授業料各三一万九〇〇〇円ずつ(一か月各二万二〇〇〇円で特別講義三・五か月を加えた一四・五か月分)の合計六三万八〇〇〇円に月間維持費一万四三〇〇円(一か月一三〇〇円で一一か月分)を加えた合計六五万二三〇〇円の収入を得られなくなり、これから予想される講師料三九万四四〇〇円(数学分については一時間当たり一七〇〇円の講師料で一か月当たり六時間として一四・五か月分の一四万七九〇〇円、英語分については一か月当たり一万七〇〇〇円として一四・五か月分の二四万六五〇〇円)を差し引いた二五万七九〇〇円が原告の被った損害となる。
原告は、同人の高校卒業時までの授業料が得べかりし収入と主張するが、中学生の塾生が高校進学後も同一の塾に通い続けることが通常であるとは認められないことに照らして原告の右主張は採用できない。
<2> 能勢竜人、亀谷裕美子、石塚誠分(二〇万六九〇〇円)
能勢竜人及び亀谷裕美子の両名は、平成一一年四月当時高校三年生であり、原告経営の塾で英語のグループレッスンを受けていたが被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍し、その後、いずれも推薦入学で専門学校や短大への入学が決まったため同年一一月までで塾へ通うことを止めている。そうすると、原告は、右両名の平成一一年四月から同年一一月までの英語のグループレッスン授業料二五万二〇〇〇円(一人当たり一か月分一万二〇〇〇円で特別講義二・五か月分を合わせた一〇・五か月分一二万六〇〇〇円の二人分)と月間維持費二万〇八〇〇円(一か月一三〇〇円で八か月分の二人分)の合計二七万二八〇〇円の収入が得られなくなった。
また、石塚誠は、平成一一年四月当時高校三年生であり、原告経営の塾で英語のグループレッスンを受けていたが被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍し、その後、推薦で大学への入学が決まったため同年一〇月までで塾へ通うことを止めている。そうすると、原告は、同人の平成一一年四月から同年一〇月までの英語のグループレッスン授業料一一万四〇〇〇円(一か月分一万二〇〇〇円で特別講義二・五か月分と合わせた九・五か月分)と月間維持費九一〇〇円(一か月一三〇〇円で七か月分)の合計一二万三一〇〇円の収入が得られなくなった。
右の三名に対しては、三者グループレッスンが行われており、右三名の移籍によって原告が得られなくなった収入合計三九万五九〇〇円から予想される講師料一八万九〇〇〇円(一時間当たり三〇〇〇円の講師料で一か月当たり六時間として一〇・五か月分)を差し引いた二〇万六九〇〇円が原告の被った損害となる。
<3> 山口千絵及び石井隆敏分(四三万一〇〇〇円)
右両名は、平成一一年四月当時高校三年生であり、原告経営の塾で英語の個人レッスンを受けていたが平成一一年四月から被告の前記行為により被告の英語塾に移籍した。そうすると、原告は平成一一年四月から右両名の高校三年時の一月分までの英語の個人授業料各四〇万五〇〇〇円(一か月分三万円として特別講義三・五か月分を合わせた一三・五か月分)と月間維持費各一万三〇〇〇円(一か月分一三〇〇円として一〇か月分)の合計各四一万八〇〇〇円の収入が得られなくなり、同額から予想される講師料各二〇万二五〇〇〇円(一時間当たり二五〇〇円の講師料で一か月当たり六時間として一三・五か月分)を差し引いた各二一万五五〇〇円が原告の被った損害となる。したがって、右両名分としては合計四三万一〇〇〇円が原告の被った損害となる。
<4> 遠藤萌子分(八万八四〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時私立中学一年生であり、同月から原告の経営する英語塾に通う予定であったが、被告の前記行為により被告の経営する英語塾に通うようになったものの欠席がちで平成一二年四月までで塾に通わなくなった。そうすると、原告は、同人の入会金一万円、平成一一年四月から平成一二年四月までの授業料二八万六〇〇〇円(一か月二万二〇〇〇円で一三か月分)及び月間維持費一万六九〇〇円(一か月一三〇〇円で一三か月分)の合計三一万二九〇〇円の収入を得られなくなり、同額から予想される講師料二二万一〇〇〇円(一か月あたり一万七〇〇〇円で一三か月分)及び入会金戻し料三五〇〇円を差し引いた八万八四〇〇円が原告の被った損害となる。
<5> 長沼エリカ及び福井ユキ分(損害なし)
右両名は、平成一一年四月に原告の経営する英語塾に入会した事実は認められるが、もともと原告の経営する塾に通っていた者ではなく、被告の前記行為がなければ原告の経営する塾に入会したはずであると見るべき事情も認められないから、右両名に関し原告に損害が生じたとは認められない。
<6> 近藤瑞姫分(一〇万八六〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時高校二年生であり、原告経営の塾で英語のグループレッスンを受けていたが被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍し、その後、平成一二年三月までで遠方の予備校に通うため塾へ通うことを止めている。そうすると、原告は、同人の平成一一年四月から平成一二年三月までの英語のグループレッスン授業料一八万六〇〇〇円(一か月分一万二〇〇〇円で特別講義三・五か月分を合わせた一五・五か月分)と月間維持費一万五六〇〇円(一か月一三〇〇円で一二か月分)の合計二〇万一六〇〇円の収入が得られなくなり、同額から予想される講師料九万三〇〇〇円(塾生一人当たり一か月六〇〇〇円で一五・五か月分)を差し引いた一〇万八六〇〇円の損害を被ったこととなる。
<7> 奥津智幸分(一六万九九七二円)
同人は、平成一一年四月当時高校二年生であり、原告経営の塾で英語の個人レッスンを受けていたが、被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍した。なお、同人は、外にも予備校に通っているため特別授業を受けたことはない。そうすると、原告は同人の平成一一年四月から高校三年時である平成一三年一月までの英語の個別授業料六一万二〇〇〇円(高校二年時が一か月二万六〇〇〇円で一二か月分として三一万二〇〇〇円、高校三年時が一か月三万円で一〇か月分として三〇万円)と月間維持費二万八六〇〇円(一か月一三〇〇円で二二か月分)の合計六四万〇六〇〇円の収入が得られなくなり、これから予想される講師料四七万〇六二八円(授業料収入の七六・九パーセント)を差し引いた一六万九九七二円の損害を被ったこととなる。
<8> 石森祥子分(二六万七八八三円)
同人は、平成一一年四月当時高校二年生であり、原告経営の塾で英語の個人レッスン(八時間授業)を受けていたが、被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍した。そうすると、原告は同人の平成一一年四月から高校三年時である平成一三年一月までの英語の個別授業料一〇七万七八五〇円(高校二年時が一か月三万四七〇〇円で特別講義を合わせた一五・五か月分として五三万七八五〇円、高校三年時が一か月四万円で特別講義を合わせた一三・五か月分として五四万円)と月間維持費二万八六〇〇円(一か月一三〇〇円で二二か月分)の合計一一〇万六四五〇円の収入が得られなくなり、これから予想される講師料八三万八五六七円(授業料収入の七七・八パーセント)を差し引いた二六万七八八三円の損害を被ったこととなる。
<9> 清水章代分(一七万五二〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時短大一年生であり、原告経営の塾で英語のトーイックコースを受講していたが、被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍した。なお、同人は短大生であるため、特別授業は受けていなかった。そうすると、原告は同人の短大二年終了までの英語の授業料六二万四〇〇〇円(一か月二万六〇〇〇円で二四か月分)と月間維持費三万一二〇〇円(一か月一三〇〇円で二四か月分)の合計六五万五二〇〇円の収入が得られなくなった。このため、原告は、右の額から予想される講師料四八万円(一か月二万円として二四か月分)を差し引いた一七万五二〇〇円の損害を被った。
<10> 新井宏和分(二万九二〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時大学四年生であり、原告経営の塾で英語のシニアコースを受講していたが、被告の前記行為により同月から被告の英語塾に移籍し、その後、就職先が決まったことにより同年七月までで塾に通うことを止めている。また、同人は特別講義を受講しなかった。そうすると、原告は同人の平成一一年四月から同年七月までの授業料一〇万四〇〇〇円(一か月二万六〇〇〇円で四か月)と月間維持費五二〇〇円(一か月一三〇〇円で四か月分)の合計一〇万九二〇〇円の収入が得られなくなり、同額から予想される講師料八万円(一か月二万円で四か月分)を差し引いた二万九二〇〇円の損害を被ったこととなる。
<11> 草山分(五万六三〇〇円)
同人は、平成一一年四月当時大学生であり、原告経営の塾で英語の受講をする予定であったが、被告の前記行為により同月から被告の経営する英語塾に入塾し、その後、大学院の合格決定により同年九月まで塾に通うことを止めている。そうすると、原告は同人が被告の英語塾に入塾したことにより、入学金一万円、平成一一年四月から九月までの授業料二一万円(一か月三万五〇〇〇円で六か月分)、月間維持費七八〇〇円(一か月一三〇〇円で六か月分)の合計二二万七八〇〇円の収入が得られなくなり、同額から予想される講師料一六万八〇〇〇円(授業料の八〇パーセント)及び入学金戻し料三五〇〇円を差し引いた五万六三〇〇円の損害を被ったこととなる。
<12> 鍵交換費用(一万四七〇〇円)
被告は、原告の抗議にもかかわらず平成一一年五月末まで原告の賃借していた教室を使用した上、ここを退去した後も雇用期間中に預かった鍵を原告に返還しなかったため、原告は鍵を交換せざるを得ず、その費用として一万四七〇〇円を要した。
(二) 原告は、右のほかに、被告の債務不履行もしくは不法行為によって信用毀損による一五〇万円の損害を被ったと主張するが、右に見た原告の授業料等の収入が得られなかった損害のほかに、原告が信用毀損による損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
三 以上によれば、原告の本訴請求は被告の債務不履行による損害額一八〇万六〇五五円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 西村則夫)
別表<省略>